V.限界と可能性の追求
スタート直後にまさかの転倒をしたにもかかわらず、見事、金メダルを獲得した、パラリンピックノル ディックスキーの新田佳浩選手の滑りを覚えている方も多いのではないだろうか。同選手はすでにバン クーバー大会で2冠を達成しているレジェンドでもある。 そんな新田選手を発掘し、指導したのが今大会でスキーチームの監督を務めた荒井秀樹監督だ。荒井監 督は、長野パラリンピックの開催にあたり、厚生省から要請を受け、障がい者スキーの組織化から選手 の育成までのすべてをになった人物であり、荒井監督と新田選手の交流については、既にメディアで報 じられたとおりである。 長野大会に際しては、自国開催であるにもかかわらずスキー選手の選考どころか、出場選手の確保すら 困難を極めたそうだ。 そもそも、障がい者スキーの選手自体が少ないことに加え、五輪という国際大会であるにもかかわらず、 国際大会に参加経験のある選手がいないのだから世界のレベルが全くわからなかったという。 その後、様々な支援を受け今日に至るわけだが、荒井監督によれば、障がい者スポーツのアスリートの 多くは、障害の部位による種目のクラス分けはやむを得ないが、そうでない競技種目のチャンピオンは 一人で良いと考えているそうだ。 リオ五輪のトラックレースでは、パラリンピック競技の選手のタイムがオリンピック競技の選手のタイ ムを上回るという結果も出ている。パラリンピックのアスリート選手たちの意見からは人間の限界を追 求し、その可能性をとことん突き詰めたいという気持ちが伝わってくるのである。(覆面ライター 辛見 寿々丸)