V.昨年の時流、今年の動向

 なんとなく誇らしい気持ちで新年を迎えることができた。というのも、小欄のスポーツ担当と文化担 当が昨年終盤に取り上げた記事が予言めいていたような気がしたからだ。  本人たちは、「こんなつまらないものを誰が読むんだ」とよく嘆くが、腐らずに時流を観察している 姿勢に感心した次第だ。  昨年12月の日本経済新聞の「私の履歴書」欄に江夏豊氏が登場した。初回で、過去の自身の薬物事 件についての反省と更生を支えてくれた恩人に対する感謝が述べられていたのが、なんとも彼らしかっ た。再犯が多いといわれる薬物事件の中で、かつて「優勝請負人」と呼ばれ、多くの伝説を残した同氏 の人生にはなるほどと思う部分が多かった。その伝説を自身の言葉で語ってほしいというファンはきっ と多かったはずだ。  そしてもう一つは、「羽生棋聖の復権」だ。昨年暮れに前竜王の渡辺明氏から竜王位を奪取するとと もに、永世七冠というとんでもない偉業を成し遂げてしまった。私自身も将棋ファンを自認しているが、 やはり担当の目は澄んでいた。三冠で迎えた年に、若手棋士にタイトルを続けて奪われ一冠に後退した 時には、羽生という天才をもってしても、とうとう世代交代の波には勝てなかったのかと思ったのだが、 実は違っていたようだ。  担当によれば、将棋界の連勝記録を更新した藤井四段の活躍が最も注目されたのは、この「竜王戦」 の舞台であった。新記録達成時には、羽生二冠は藤井四段に対し、「檜舞台で顔を合わせる日を楽しみ にしています」とコメントしたそうだ。その檜舞台とは、この「竜王戦」であることは間違いなさそう だ。おそらくそこに照準を合わせての精進が続いていたのだろう。  さて、今年に目を向ければ、注目は相変わらず、大谷翔平選手と藤井四段だ。個人的には、イチロー  の動向も気になるのだが。

(覆面ライター 辛見 寿々丸)