V.江夏豊 続その伝説

1971年。西宮球場で開催されたオールスターゲームでこの伝説は生まれた。全セの先発として登板 した江夏豊氏は全パの打者相手に、9者連続奪三振というとてつもない記録を達成したのであった。現 行のルールでは、オールスターゲームでは投手の投球回数は3回を超えることはできないため、この記 録は決して破られることはない。現在でも、ファンの記憶に残る名場面の一つでもある。 この時の捕 手は、所属球団である阪神でバッテリーを組む田淵幸一氏。記録達成の瞬間、江夏氏は田淵氏から偉業 達成の記念としてボールを手渡されるものと待ち構えていたそうだ。ところが、田淵氏は無造作にボー ルをグラウンドへ転がしてしまった。「ブチはなんと気の利かないやつ」とそう思ったその瞬間、その ボールを大事そうにある選手から手渡されたのであった。ある選手とは、なんと一塁を守っていた王貞 治氏だった。なんともらしい話であり、それが伝説に花を添える美談になってしまうのも不思議だ。 そんな同氏が、必ず触れるのは、過去の自身の「薬物事件」についてだ。自身を立ち直らせてくれた大 親友である衣笠祥雄氏への感謝の気持ちとともに、お世話になった野球界に少しでも恩返しがしたいと 語る。最近の清原氏の「薬物事件」についてもコメントを求められたようだ。多くのメディアでは「江 夏」という固有名詞を避けた記事が多かったように思うが、自身が猛省し、野球界に対する思いはひし ひしと伝わってくる。

(覆面ライター 辛見 寿々丸)