V.「TONYワールド」

「イソノさん」の助言によって、すっかり僕の車中は「東子ワールド」になったのであるが、やがてそ れも終焉を迎える。 きっかけは、同じく職場の同僚である「オニヨメ」が沢田知可子を推薦したからだった。彼女を代表す る楽曲といえば「会いたい」ということになるのだろうが、僕はどちらかといえば「忘れられない」と いう楽曲の方が好きだ。 作詞はどちらも沢ちひろなのだが、「会いたい」の作曲はチューリップの財津和夫、「忘れられない」 の作曲は彼女自身である。 曲作りを通じて、彼女の歌い手としての成長が感じられるのがその理由だ。そして、それが後にスマッ シュヒットする中西保志とのデュエット曲「幸せのドア」へとつながったのであろう。 そんな時、「会いたい」の作曲者である財津和夫の病気が伝えられた。ふと思い出したのは、やっぱり 「桜貝のシンちゃん」のことだ。彼の車中で流れていた楽曲で、かつて僕がひどく気に入ったバンドを 思い出したのだ。何度も思い出そうとしてもできなかったものが、一瞬でよみがえったのだから不思議 でならない。 そのバンドの名は「TONY」。チューリップのドラマーである上田雅利が中心となって結成したバン ドだ。 早速、彼らのアルバムを買った僕の車中が「TONYワールド」になったのは言うまでもない。 最後に、前号の小欄の担当者に注意をしておきたい。「定石」は囲碁の用語であり、将棋の場合は「定 跡」である。言葉には気を付けてほしい。自戒を込めて。

(覆面ライター 辛見 寿々丸)