V.「恋するチャック」
僕が「ショウ」から紹介された「カセットテープ売り」のアルバイトだったころ、「桜貝のシンちゃん」 は新宿にある百貨店の靴売り場でアルバイトをしていた。 どうして「靴売り場」だったのかはよくわからないが、本人から「僕は足フェチなんだ」と聞いたこと があったから、そういうことだったのかもしれない。 そんなある日、僕のアルバイト先に高校時代の同級生の女子二人が勤め帰りに寄ってくれたことがあっ た。僕がバイトするお店で買い物があってのことだったのだが、その目的とする商品についての知識が なかった僕は、お店の社員さんに対応をお願いすることにした。チョッとホッとした僕が、彼女たちが 向かった売り場を振り向くと、ほぼすべての社員さんが二人を取り囲むように対応していたのだった。 僕はすっかり忘れていたのだが、彼女たち二人は誰でもが知っている超大企業の受付嬢に新入社員なが ら抜擢されていたのだったから、オジサンたちの対応も自然とそうなったのだろう。 二人の帰り際に、僕は食事に誘われたのだったが、なぜかその日に限って「桜貝のシンちゃん」と飲み に行く約束をしていた。 4人で食事すればよかったのだろうが、どういうわけかそのお誘いは丁重にお断りした。 その時、僕の頭はリッキー・リー・ジョーンズの「恋するチャック」に完全に支配されていてそれどこ ろではなかったのだ。(覆面ライター 辛見 寿々丸)