V.もうひとつのカセットテープ

ある日、ピンク・フロイドの「狂気(邦題)」というアルバムを聴いてみたくなった。理由は、同じ楽 曲をLPレコードとCDのそれぞれで再生した場合の違いを確認したかったからだ。結果は、どちらも それぞれ良いところがあったわけで、個人的にどちらが好みかと問われれば、両方と答えるしかない。 そもそも、このアルバム自体が録音技術を含めいろいろな意味で非常な秀作であったことが、その大き な要因であることは疑いようのないことかもしれないが、それぞれに特有の味があったのであった。 最近では、カセットテープを車中で聴くための車載器が発売されて話題になったほどだから、レコード とともにアナログに注目が集まっているようだ。音源そのものは同一のものを使用していると思われる から、デジタルとアナログでの楽曲の表情の違いはオーディオを趣味とする僕にとっては非常に興味深 いことだ。 男友達からカセットテープを手渡されたのは「ショウ」だけだったと思っていたのだが、それが記憶違 いであることに最近ふと気が付いたのだ。きっかけは一本の電話で、それは数年ぶりの「桜貝のシンち ゃん」からのものだった。「桜貝のシんちゃん」とは、付き合い始めた当時からよく音楽の話題で盛り 上がっていたから、忘れてしまっていたのかもしれない。そのテープの中身のアルバムタイトルは忘れ てしまったが、アーチスト欄には「早見優」のクレジットがあったのだった。

(覆面ライター 辛見 寿々丸)