V.「Yes−No」

 ノーランズの楽曲を聴くと思い出すのは、「レイコ」のことだ。僕にとってはかわいい妹のような存 在だったし、よく遊んだのだけれど、仲間内ではアイドル的存在であったと記憶している。背は決して 高くはないけれど、プロポーションは抜群で、チャーミングな笑顔の持ち主だったから、当然といえば 当然だったのだろう。  そんな彼女が仲良くしていた女子の一人に「タカコ」がいた。彼女は笑ったときの真っ白な歯とえく ぼ。そして、少し日焼けした小麦色の肌の持ち主で、その健康美が印象的だった。そんな彼女に思いを 寄せていたのが、ほかならぬ「ショウ」だった。  「タカコ」は背が高く、いわゆる美形でかなり目立つ存在だったからキャンパスではよく男子から声 をかけられていた。「ショウ」がそんな彼女にひかれたのも無理はなかったのかもしれない。  ただし、仮に「タカコ」が「ショウ」に好意を持っていたとしても、二人で並んで歩くには「タカコ」 に相当の勇気を要したことは間違いない。実際、僕たちも二人が並んで歩いているところを見たことは 一度もなかった。なにしろ、「ショウ」のパンチパーマと急角度のメガネといういでたちでは、僕でも 繁華街を二人で歩く気にはならなかったからだ。「ショウ」にとっては、とっても高いハードルだった はずだが、彼は自分のスタイルを貫いていた。  その頃の僕はといえば、渋谷中心に活動していた。どこのカフェでも流れる「Yes−No」には少 し飽き飽きしていた。

(覆面ライター 辛見 寿々丸)