V.左からは「ノーランズ」、右からは「ポリス」
「ショウ」から一本のカセットテープを手渡された年の冬休み。僕は彼からアルバイトを紹介された。 それが、カセットテープを販売するという仕事だったから、今思えば不思議な気がする。 「ショウ」は屋外で寒風の強い中、ダウンジャケットを着こんでの仕事だったから寒さが応えたと思 うのだが、いつもキャンペーンガールの女子たちと楽しげに働いていた。それは僕にとっては、かなり うらやましいことだった。というのも、僕は屋内での販売でぬくぬくなのだが、職場にはオジさんたち しかいなかったからだ。 とはいえ、僕は僕で得したこともあった。 「ショウ」は、女子とイチャイチャしながら働いていたわけだから、仲間の女子からは半ば軽蔑のま なざしを向けられたのだった。それに比べ、僕の周りにはオジさんたちしかいないのだから同情を集め たようだ。昼食用に手作りの弁当の差し入れがほぼ毎日のようにあったのがうれしかった。もちろん、 周囲のオジさんたちからは冷やかされるのだけれど、それはそれで気分の良いものだった。 ただ、困ったのは一日中同じ音楽を聞かされることだった。それも2曲別々の楽曲が左と右から、尋 常ではない音量で流れてくるのだ。左からは「ノーランズ」、そして右からは「ポリス」だったから僕 の頭はいつもゴチャゴチャしたままだった。「ダンシング・シスターは高校教師」なのか「高校教師が ダンシング・シスター」なのか。 いつもそんなことを考えていた。(覆面ライター 辛見 寿々丸)