V.「ルビーの指輪」と「木綿のハンカチーフ」

物語の始まりは「ショウ」から手渡された一本のカセットテープであった。 ところが、このカセットテープが、今改めて注目されているらしいことを知った。 その理由の一つは、カセットテープの場合はアルバムの順番どおりに楽曲が再生されるので作り手の思 いがそのまま伝わるということだそうだ。 すっかりデジタルに慣れてしまった現在ではあるが、アナログ時代のアルバム制作には相当の思い入れ があったことがうかがわれる。 もちろん、現在でも作り手側のそういった思いは変わってはいないであろうことを考えると、僕たちの 方がその思いを半ば無視したような聴き方をしているように思えてならないのだ。 1980年といえば、前年に発売されたウォークマンが爆発的にヒットした年だったように記憶してい る。流行には人一倍敏感で外国車を乗りこなしていた「ジミー」はその愛用者の一人であり、片時もそ れを手放さなかったことはよく覚えている。 ウォークマンの発売と前後してCDの開発も進められていたわけだから、まさに時代はアナログからデ ジタルへの変遷期のまっただ中にあったわけだ。 翌81年に街角で最もよく耳にした楽曲は寺尾聡の歌う「ルビーの指輪」だったのだが、特にその歌詞 はなんともいえないほど街の景色に驚くほど溶け込んでいた。 この楽曲に詞を提供したのが松本隆だったのもこの変遷期という時代だからのことだったからなのだろ うか。 ちなみに彼が詩を提供した楽曲のうち人気ナンバーワンは「木綿のハンカチーフ」なのだそうだ。

(覆面ライター 辛見 寿々丸)