I.損益計算書の注意点
財務諸表のうち「貸借対照表」を残すのみとなりましたが、その前に「損益計算書」について注意すべ
き点について触れておきます。繰り返しになりますが、「損益計算書」は一会計期間の収益と費用の状
態を表すものです。そして、利益は売上総利益・営業利益・経常利益・税引前当期純利益・当期純利益
の5段階で表示されます。さらにどの段階の利益もそれぞれ重要な意味を持っていることについてはす
でに申し上げた通りです◆「○○社は過去最高益を云々」などと経済ニュースで報じられますが、この
利益がどの利益を指しているのかに注目する必要があります。売上総利益が取り上げられることはあり
ませんが、その他の4つのうちのどの利益なのかはその会社の業績を見るうえで非常に重要といえます。
個別には様々な事例がありますので、別の機会があればそちらで取り上げてみたいと思います。要する
に、どの段階での利益なのかに注意が必要ということです◆さらに注意すべき点は会計処理の方法につ
いてです。というのも、会計処理の方法については公正妥当と認められる方法であれば適正であるとさ
れるからです。中小企業にあっても、「中小企業の会計に関する基本要領」が設けられており、原則的
にはこの基準に基づいた財務諸表の作成が求められています。「貸借対照表」とも関連する事項のうち、
代表的なものを例示してみたいと思います◆それは、固定資産の減価償却の方法です。この償却方法は
定額法であっても定率法であっても、継続的に適用され、合理的な方法であれば適正な会計処理とされ
ます。ところがどちらの償却方法を選択しているかによって利益が変わります。減価償却前の営業利益
が100万円であると仮定します。500万円の設備を期初に投資した場合を考えてみます。この設備
の耐用年数を10年とした場合の減価償却費は定額法では50万円、定率法では125万円と計算され
ます。従って、定額法を採用した場合は50万円の営業利益。定率法を採用した場合は25万円の営業
損失となります◆その他にも会計処理の方法によって利益が変わる場合がいくつかあります。これらの
事項については、注記表の中で「重要な会計方針」として明示されますので、その確認を行うことによ
って把握することができます。会計処理の方法によって会計上の利益が異なることには注意が必要です
し、それは「貸借対照表」を理解するうえでも重要となってきます。