V.「Over」そして「ラブ・ストーリーは突然に」

「We Are」に続くアルバムのタイトルは「Over」。そして、オフコースはグループ解散までヒット曲を 連発することになる。 ショウの端正な顔立ちは、今風に言えば「イケメン」ということになるのだろう。さらに、鍛え上げた であろう筋肉をまとった均整のとれた体型の持ち主でもある。 ところがである。彼のヘアースタイルは限りなくパンチパーマに近く、金縁で急角度のついたフレーム の眼鏡を愛用していた。もちろん当時そんなファッションが流行していた事実はない。 一見するとその風貌は「武闘派」そのものである。 ある夜、彼の高校時代からの親友である「ジミー」と僕、そしてショウの3人で新宿歌舞伎町を歩いて いた。すると突然、数人のチンピラ風の男たちに3人は取り囲まれて絡まれてしまったのだった。とっ さに、ジミーと僕はショウに「まかせた」とだけ叫んで、目的地へと一目散に走って逃げた。 しばらくたってそこに現れたショウは何事もなかったかのように、ただ笑っていた。 ショウは彼らとどう決着を付けたのだろうか。それについて彼は一切を語ることはなかった。 そんなことがあった直後のある日、ジミーから僕へどうでもいいような話が舞い込んだ。しかし、僕た ちは即座に無視することはできなかった。それがショウに関することだったからだ。 「We Are」が発表された翌年の1981年。 この年は日本の音楽シーンにとって特別な年として多くのファンの脳裏に刻まれている。大瀧詠一、寺 尾聡らが後世に残るであろう楽曲を相次いで発表したのである。 その後、時代はバブル期へと向かい、「ラブ・ストーリーは突然に」という名曲が誕生する。 その頃の僕たちはそんなことなど全く知るはずもなかった。

(覆面ライター 辛見 寿々丸)