V.「We are」

1980年の冬だったと記憶している。 当時「ショウ」と呼ばれていた友人から突然、一本のカセットテープを手渡され、そして続けざまに「 聴いてみて、感想を聞かせて欲しい」と言われた。手渡されたテープには何らのクレジットもなく、な おかつショウはそんなことをするタイプでもなかったので、よくよくのことと思った僕は「分かった」 とすぐさま了解した。 その日の僕はといえば、たまたま車で来ていたので早速カーステレオにそのテープを挿入して聴いてみ ることにした。すると流れてきたのはキャッチーなフレーズの音楽だった。そもそもショウとはその日 まで音楽にまつわる話なぞ一切したことはなかったわけだから、かなりビックリしたことをよく覚えて いる。 イントロが終わりそのまま曲は続いた。 その楽曲の歌声は間違いなく小田和正。ということは、これはオフコースのアルバムなのかとそこで気 づいたのだった。そのテープから流れる楽曲は、それまで僕が彼らに抱いていたイメージを覆すのと同 時に、全曲を聞き終えたときには背筋に電気が走るような衝撃さえ感じるものだった。 どうしてショウがカセットテープにダビングしたオフコースのアルバムを僕に聴かせて感想を求めたの かは、その時の僕にはまったくわからなかったし、その後そのわけを聞いたこともない。 でも、今となってはなんとなくそこに込められた思いがわかるような気もする。なぜならそのアルバム のタイトルが「We are」だったから。

(覆面ライター 辛見 寿々丸)