I.損益分岐点を知る
今回は、「損益分岐点分析」についてです。前号では、起業後しばらくは売上目標が未達である企業が
多いことについて日本政策金融公庫等の調査をもとにご紹介しました。と同時に、決して未達を悲観す
ることなく、そこへ至った原因の把握とその対策が大切だと申し上げました◆売上目標を達成すること
も重要ですが、もっと重要なのは目標利益の達成です。売上目標は達成したけれども赤字だったという
ケースもよく見かけます。その原因としては大きく二つ考えられます。第一点は、売上原価が計画より
増加した場合であり、もう一点は、諸経費が計画より増加した場合です。こういった場合に有効な方法
が「損益分岐点分析」です◆この分析方法を簡単に言えば「いくら売れれば利益が出るか」を費用の積
上げから求める方法です。この分析により、目標利益を確保するために必要な売上高や、事業継続に最
低限必要な売上高などを把握することができます。また、この分析を行うことで収益改善のために何を
すれば良いかが見えてきます◆それでは、具体的に見ていきましょう。損益分岐点分析では、費用を変
動費と固定費に分けることにより損益分岐点売上高(収支トントンとなる売上高)や損益分岐点比率(
売上高に対する損益分岐点売上高の比率)を知ることができます。図表を用いた方がわかりやすいと思
いますが、簡単な例をもとに続けます◆説明を簡便にするために業種は小売業とします。まず、費用を
変動費と固定費に分けます。変動費とは売上に連動して増減する費用をいいます。これに対し固定費と
は、売上に関係なく発生する費用をいいます。小売業の場合は、変動費は商品の仕入原価・販促費用な
ど、固定費は店舗家賃・人件費などとなります。光熱費や通信費などはどちらともいえない場合がある
ため、全額のうち何割かが変動費、残りが固定費となります◆実際に数字を使って計算してみます。前
提として、変動費75万円、固定費80万円、限界利益率(詳細は次号でとりあげます)25%としま
す。限界利益とは売上から変動費を引いたものを言い、その売上に対する割合が限界利益率となります。
例えば、売上100万円に対する変動費が75万円であれば、限界利益率は25%と計算されます◆実
際に損益分岐点の売上を計算してみます。まず、固定費は売上に関係ありませんから80万円です。次
に、この固定費80万円を限界利益率の25%で割ります。答えは320万円となります。これが損益
分岐点売上です。売上高から逆算してみます。売上高の320万円に限界利益率25%を乗じると80
万円です。ここから固定費の80万円を差引くと0円=収支トントンになります。次号でもう少し掘り
下げたいと思います。