I.最適な事業形態を選ぶ
今回は、起業や独立開業に際しての事業形態について触れたいと思います。この事業形態については、
大きく「法人」と「個人事業」に分かれます。よくご相談をいただくのは「どちらが有利なのか?」と
いう点についてです。前号で「自分にとって最適なのはどの形態か」と申し上げました。しかしながら
選択に迷ってしまうのは、それぞれメリット・デメリットがあるためです◆平成18年に施行された会
社法では、資本金の規制が撤廃され、その他の規制も整理されました。これにより法人の設立が以前に
比べて格段に容易になりました。特に株式会社については、様々な機関設計ができるようになったこと
が大きかったといえます。法人設立の敷居が下がったことにより、起業や独立開業に際して形態の選択
の余地も大きくなったともいえます◆以下、それぞれの形態のメリットデメリットについて整理してみ
ます。ここでは、このメリットやデメリットについて、大きく「開業手続」「社会的信用度」「税金」
「社会保険制度」の4点に着目することにします◆「開業手続」については、個人は特別な手続きは不
要です。とはいえ、許認可が必要な事業であればそれらを取得しておく必要がありますし、税務面での
手続きも必要となります。それに対し、法人の場合は定款の作成、認証を経て法務局への登記申請が必
要となります。さらに、これらの手続きに関連して費用が発生します。許認可や税務面での手続きにつ
いては個人の場合とほぼ同様か場合によっては複雑な場合もあります◆「社会的信用度」については、
法人の場合は財務諸表など会社の経営状況を示す指標があることや会社法などの法律の規制を受けるた
め、一般的には個人事業に比べ社会的信用は高いといえます。また、金融機関からの融資が受けやすか
ったり、取引の上でも法人の方が有利であることが多いのが実態です◆「税金」については、法人の場
合は法人税(給与等の支払いについては源泉徴収義務があり、その受給者から所得税を預りそれを納め
ます)、個人の場合は所得税が課税されます。法人税は様々な税制上の優遇措置があり節税もしやすい
面があります。また、赤字の場合にはその赤字を繰り越せる期間が個人に比べて長くなっています。ま
た、所得税は累進課税であるため、所得によっては不利な場合があります◆「社会保険制度」について
は、個人の場合は国民年金と国民健康保険に加入することになります。一方、法人の場合は社会保険(
厚生年金、健康保険)に加入することになります。社会保険の場合は、保険料の半分を法人が負担しま
す。国民年金は全国一律であるのに対し、社会保険は会社からの報酬に応じて保険料が変わる仕組みに
なっています◆以上のように、メリット・デメリットが一長一短であるため、一概にどちらの形態が有
利であるとはいえません。あえて申し上げれば、開業時の事業計画でそれなりの規模を織り込んでいる
のであれば、社会的信用度や税金面でのメリットを多く享受できる法人を選択する方が良いでしょう。
そうでない場合は、個人事業主からスタートするという選択が良いかもしれません。個人事業でスター
トして、後に法人化するという方法もあります。まずは、自分にとって最適な形態を選択してスタート
できるかどうかです。