I.税率引き上げへ建設的な議論を
名実ともに新年度がスタートしました。新年度から変更になった制度は様々ありましたが、最も大きな
ものの一つが消費税率の引き上げであったことは間違いないでしょう。消費税増税に伴う景気動向につ
いては今後を注視しなければなりませんが、今回は消費税の軽減税率について考えてみたいと思います
◆その軽減税率を考える前に一点触れておきたいのが税収の使われ方です。今回の増税では約5兆円の
税収増が見込まれています。その全額を社会保障に充てるということですが、その中身を見ると制度の
拡充に使われるのが5兆円の10分の1の5千億円で、残りは現行の制度の維持のために使われること
になっています。ここにも日本の厳しい財政事情を見て取ることができます◆さて、軽減税率について
も議論が始まっているようですが、個人的にも議論そのものは早い段階から行っておいたほうが良いと
思います。ただし、実際の導入についてはその時期は慎重に判断を行うべきだと思います。来年10月
にはさらに10%への税率アップが予定されていますが、そのタイミングでは軽減税率の導入は見送り、
逆進性解消のためには別の方法をとるべきだと考えます。例えば、簡易な給付付税額控除など負の所得
税という考え方も有力だと思います◆消費税率10%段階での軽減税率導入に賛成できない理由は二点
あります。まず、第一点は当然のことながら軽減税率導入により税収減が発生します。この場合その財
源をどこに求めるのかという点です。もう一点は欧州の多くの国で軽減税率が導入されてはいますが、
消費税率は日本よりはるかに高く、その軽減税率が適用されている品目の平均が10%程度と試算され
ている点です◆増税問題が引き金となって近代国家を成立させた欧米諸国に対し、日本ではこういった
観念が育たなかったと言われています。そのため、消費税の導入については、日本の税制上はじめて国
民的な大議論が行われる契機となったとされます。普遍的に提供される公共サービスは誰もが普遍的に
負担する税金、すなわち消費税で賄うということは多くの国民が認識しています。すなわち、受益と負
担について国は鋭く問われるようになったわけです。増税=負担増としてネガティブにとらえるのでは
なく、建設的な議論がより一層必要な時代です。
II.平成26年度税制改正(所得税編)
平成26年度税制改正が3月20日に成立し4月1日に施工されました。今回は所得税について平成
26年から変更になるものについて主なものを紹介します。
1.中古住宅取得後に耐震改修をした場合も住宅ローン控除の対象
耐震基準に適合しない中古住宅を取得した場合でも、取得の日までに耐震改修工事の申請をし、かつ
居住する日(取得の日から6ヶ月以内の日に限る)までにその住宅が耐震基準に適合することが証明さ
れたときは住宅ローン控除を受けられるようになりました。
ただし、「既存住宅の耐震改修をした場合の所得税額の特別控除」の適用を受ける場合には適用されま
せん。
2.マイホームを買い換えた場合の譲渡益の課税繰り延べの譲渡対価要件が引き下げ
居住用のマイホームを買い換えた場合に、譲渡益に対する課税を将来に繰り延べることができる制度
の譲渡対価要件が1億5千万から1億円に引き下げられました。
3.小規模企業共済等掛け金控除の適用範囲の拡大
従来、サービス業として分類されていた宿泊業、娯楽業については5人以下でないと小規模企業共済
制度への加入資格がなかったものが、政令特例業種となり従業員が20人以下であれば小規模企業共済
等掛け金控除の対象となることになりました。
4.企業型確定拠出年金の拠出限度額の引き上げ
企業年金の一種で企業が従業員のために拠出する企業型確定拠出年金の拠出限度額が引き上げられま
した。(拠出金は全額損金)
他の企業年金がない場合 月額5.1万円から月額5.5万円に引き上げ
他の企業年金がある場合 月額2.55万円から月額2.75万円に引き上げ
5.ゴルフ会員権の譲渡損失の損益通算廃止
従来ゴルフ会員権の譲渡損失は総合課税の対象となり、事業所得や給与所得などの他の所得と損益通
算することができましたが、平成26年4月1日以後行う譲渡については他の所得との損益通算及び雑
損控除を適用できない「生活に通常必要でない資産」となり他の所得との損益通算はできなくなりまし
た。
6.雑損控除の対象となる資産の損失金額の計算方法の見直し
災害や盗難、横領などによって損害を受けた場合に受けられる雑損控除の対象となる資産の損失金額
について、従来の時価を基礎として計算する方法のほか、資産の取得価額から減価償却費累計額を相当
額を控除した金額を基礎として計算する方法が加えられました。
7.ストックオプション課税の見直し
税制非適格ストックオプションを権利行使前に発行法人に譲渡した場合に改正前は株式等の譲渡所得
として20.315%を課税されていたものが給与所得等として課税されることになりました。
III.社会保障と税の一体改革説明会
財務省は、2月から各都道府県の財務局で、「社会保障と税の一体改革説明会」を行っています。消
費税率はなぜ引き上げられるのか、税率引上げ分は何に使われるのか、税率引上げにより景気は悪くな
らないのか、社会保障制度は将来も大丈夫なのか、といった疑問に答えるために関係省庁の職員が説明
するそうです。
神奈川県でも5月13日に開催されます。プログラム内容は・国の財政事情、社会保障と税の一体改
革等(財務省)・社会保障制度改革等(厚生労働省)・中小企業支援を中心とした好循環実現のための経済
対策等(経済産業省)・質疑応答となっています。
これまでに行われた説明会の実施報告も財務省のWebサイトで見ることができます。質疑の内容も
掲載されていますので気になる方はチェックしてみましょう。
財務省サイト:社会保障と税の一体改革説明会
http://www.mof.go.jp/comprehensive_reform/
(Webデザイナー)
IV.消費税が8%に変わりました
あっという間に4月に突入し、消費税も増税されました。増税前にいろいろと新しく買い揃えたり、
ガソリンを満タンにしてみたりした方も多いのではないでしょうか。
私自身も、増税に備えて、普段は1ヶ月単位で購入している定期券を思い切って6ヶ月分購入してみ
ました。しかし、購入してから考えてみたところ、今の私に必要なのは6月末までの定期券。手元にあ
る定期券の期限は10月頭。少しでもお得に、と考えたハズが無駄な買い物をしてしまったのです。結
局、窓口で3ヶ月定期に変更してもらうことができましたが、皆さんも次回の増税の際にこういった失
敗の無いよう気をつけてくださいね。
ところで、5月頭といえばGWです。増税して節約モードではありますが、やはり暖かくなってきた
この季節、お出かけしたいですよね。
季節柄、お弁当や飲み物を持参してピクニックというのも楽しいかと思います。せっかくだからどこ
かで遊びたい、という場合にも、野毛山動物園をはじめ、無料で楽しめるスポットは神奈川県内だけで
もたくさんあります。今流行の工場見学も無料で楽しめるコースです。
また、お出かけ前に、クーポンや優待券が無いかどうかチェックするのも一つの方法です。インター
ネット上にも、たくさんの無料スポットやお出かけコースの紹介がされていますので、それらを活用し、
お得に楽しく過ごせる休日のプランを考えるのも楽しいのではないのでしょうか。
(企業会計アドバイザー 米山 裕子)
V.電王戦に見る 異なる構図
人間VSコンピュータ。今年で3回目を迎えた将棋の電王戦。大方の予想通り、昨年に続きコンピュ
ータが勝ち越すという結果に終わりました。昨年行われた第2回ではコンピュータ将棋がどれほど強く
なったのかにかなり注目が集まりました。
しかし、今回でその強さは明確に証明されたといっても過言ではないでしょう。しかも、今後ますま
すコンピュータは進化して強くなることも間違いありません。
主催するドワンゴ社は来年以降もこの電王戦を続けることを表明していますが、この結果からしてこ
の企画を続けることの意味について疑問も生じます。
コンピュータ将棋がプロの将棋棋士に勝つのは不可能だとも言われてきました。しかし、将棋界の第
一人者である羽生氏は「いつか必ずコンピュータ将棋は人間を超える」と明言してきました。その予言
どおり、研究者たちの努力の結果によりそれが事実になりました。この事実は、決してコンピュータが
人間に勝ったということではなく、人間たる研究者たちの勝利です。
そう考えると、人間VSコンピュータという構図ではなくプロの将棋棋士VSコンピュータ研究者と
いう異なった構図が見えてきます。
今後はお互いがさらに向上し、面白い対局を見ることができることに大いに期待したいものです。将
棋というゲームは勝ちか負けしか結果はありませんが、もっと重要なのはその内容なのです。勝敗は二
の次です。
(覆面ライター 辛見 寿々丸)