V.時空を超え よみがえる名場面

近頃楽しみにしているものの一つに、NHKで放送中の「木曜時代劇」があります。毎回見るわけでも なく、録画して見るわけでもないのですがなぜか時々楽しませていただいています。今年もたまたまそ のドラマを見る機会があったので、思いだした次第です。 昨年の放送の中で特に印象に残ったのが「薄桜記」という作品でした。時代劇ファンならご存知だと思 いますが、五味康裕氏の原作を「時代劇の父」と呼ばれた伊藤大輔氏が脚色した同名の映画が、主人公 の丹下典膳を市川雷蔵さん、そしてその友である堀部安兵衛を勝新太郎さんが演じ公開されています。 子供のころ市川雷蔵さんの演ずる「眠狂四郎」の大ファンだった私は、リアルタイムではありませんが 以前、その映画を見てひどく感動したことが記憶によみがえりました。 クライマックスは、桜のように舞い散る雪の中、典膳は片腕で大勢と切りあう大立ち回りの末、力尽き 息絶えます。さらに、息絶えた典膳の手を握ったまま絶命する元妻の千春。残酷な結末でありながら、 なぜかそれが非常に美しいという不思議な作品でした。 脚色は異なるものの、50年という歳月を超えて再現された映像は、さすがNHKの誇る技術力を存分 に発揮したものでした。ラストシーンでの絶命した典膳とその妻千春に舞い散る雪はまさに桜が散る様 そのものでした。 ただただ、その美しさに引き込まれてしまいました。残酷なシーンであるにもかかわらず。 技術の進化により、美しい名場面が時空を超えさらに美しくよみがえる。そんな思いがしました。

(覆面ライター 辛見 寿々丸)