I.「不利益の分配」から「未来への投資」へ

「決められない政治」という現象。どうやら、太平洋を越えて伝染してしまったようです。米国では政 府機関の一部機能停止という異常事態に陥ってしまいました。その原因としてオバマ大統領の指導力不 足が指摘されています。第一点がFRB議長の決定が9月中にできなかったこと。第2点がシリアへの 空爆を決断できなかったことだと言われています◆そんな中、わが日本では10月1日に安倍首相が来 年4月からの消費増税を決断しました。私自身残念ながらその記者会見をリアルタイムで聞くことがで きませんでしたから、翌日の新聞に掲載された全文を少し検証してみることにしました◆最近の首相と いえば、ブエノスアイレスで開催されたIOC総会での東京五輪招致のプレゼンテーション、そしてニ ューヨークでは国連総会での演説が印象的でした。首相の演説についてはスピーチライターの存在がよ く知られているところではありますが、いずれもキレのあるプレゼンなり演説であったというのが大方 の印象ではないでしょうか◆今回の会見は、半世紀ほど前の東海道新幹線の開業と東京五輪、そしてそ の後の半世紀を振り返るところから始まります。そして本論へ入った後、今度は250年前の長州藩の 財政問題から明治維新へと続く流れについて触れ、また本論へ戻り、最後も長州藩の改革が明治維新の 原動力となる若者育成の基盤となったと結んでいます◆私が批評すべきことではありませんが、読み物 としては完成度の高い秀作だと思います。しかし、肝要なのは当然その本論の部分です。私たち国民に 対して理解と支持を求めているわけですから、どれだけの説得力があるかということです◆まず、大前 提となるのが基礎的財政収支の赤字を15年度に半減し、20年度には黒字化するという目標です。消 費増税の決断を表明する前段では、将来に向け真に安定した社会保障制度をつくるためには、毎年増え ていく社会保障費をどう賄うのかが大きな課題であり、デフレから脱却し再び成長軌道を取り戻すこと が必要だと訴えています。さらに、大胆な経済対策を果断に実行すれば、経済再生と財政健全化は両立 しうるとしています◆この会見では、「未来への投資」という言葉が3回使われています。改革の例示 として用いた長州藩の改革を非常に強く意識していることがわかります。あらゆる政策を駆使し、未来 への投資により経済再生と財政再建を実現するとともに社会保障制度を次世代へしっかりと引き渡す。 ざっと検証すればこのような内容だと私は理解しましたが、問題は次のステップです。つまり、消費税 率を10%に上げる段階です◆近年、「不利益の分配」といわれる政治の世界ですが、これでは明るい 未来を展望することは叶いません。経済再生と財政再建は両立するという首相の言葉を信じたいもので す。そのためにも、一人ひとりが何ができるのかを考えチャレンジする良い機会なのかもしれません。

(財務アナリスト 浦邊 謙佑) HP:ぜいりし.com 浦邊剛至税理士・行政書士事務所 ブログ:会計事務所の一日