II.はずれ馬券訴訟その2
はずれ馬券が経費にあたるかどうかが争われた裁判で、大阪地裁ははずれ馬券の購入費用も経費にあ
たるとの判決を下しました。
この裁判については以前にもこのコラムで触れたのですが、興味をもたれた方が多かったので改めて
この裁判について触れてみたいと思います。
<事件の概要>
会社員の男性が2007年から2009年までの3年間に約28億7000万円分の馬券を購入し、約30億
1000万円の馬券配当を得ました。
利益は約1億4000万円でした。男性は馬券配当で得た所得を申告しなかったため2009年までの3年間に
約5億7000万円を脱税したとして所得税法違反に問われ 無申告加算税を含む約6億9000万円を追徴課税
され、男性は裁判所に無罪を訴えていたというものです。
<大阪地裁の判決(平成25年5月23日)>
判決では「元会社員は無差別に一定の条件で網羅的に購入し、多額の利益を得て、娯楽ではなく、資
産運用の一種ととらえていた」と指摘、外国為替証拠金取引(FX)などと同じ雑所得に分類しまし
た。そして、払戻金から全ての馬券の購入費を経費として差し引き、実際のもうけの約1億4000
万円を競馬の所得と結論付け、脱税額を約5千万円と大幅に減額しました。
なお、無申告の違法性は認め、懲役2月、執行猶予2年の有罪としました。
<争点>
この裁判では馬券の払戻金が一時所得であるか雑所得であるかが争点となっています。
所得税法では所得を利子所得、事業所得、給与所得、一時所得、雑所得など10種類に区分していま
す。
一時所得は「営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の所得で、労務や役務の対価としての
性質や資産の譲渡による対価としての性質を有しない一時の所得」をいいます。
懸賞金、生命保険の一時金などが該当します。
雑所得は他の9種類の所得のいずれにも当たらない所得をいい、公的年金等、著述家や作家以外の人
が受ける原稿料や印税、講演料などが該当します。
一時所得の計算方法は「総収入金額-収入を得るために支出した金額-特別控除額(最高50万円)=一時
所得の金額(課税されるのはその2分の1の金額)」です。
「その収入を得るために支出した金額」とは、「その収入を生じた行為をするため、又はその収入を
生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る」とされています。
雑所得の計算方法(公的年金等以外)は「総収入金額-必要経費」です。
一時所得だとすると「直接要した金額」のみが経費とされるため、はずれ馬券は経費になりません。
一方雑所得だとするとFX同様、はずれ馬券の購入費(損失)も当り馬券の戻し金から控除すること
が可能になります。(FXでは差金決済による差損は差金決済による差益と相殺できます)
<まとめ>
大阪地裁の判決では、会社員の言い分をほぼ認め、継続的に資産運用としている馬券購入については
雑所得とするという判決が下されました。
しかし、国税不服審判所などで同様の案件が争われた場合にはほとんどが国税側の勝訴となっていま
す。
大阪地検も大阪高裁に控訴しているので、今後どうなるかはまだわかりません。
ただ、税を負担する能力に応じた課税という租税の原則から考えると、実際の利益を大きく上回る課
税には違和感を感じざるを得ません。