V.文学に寄り添う音楽の役割

村上春樹氏の新作小説が刊行されてからしばらくたちます。その売れ行きの凄まじさの反面、書評家や評 論家と称される人たちの意見はかなり手厳しいものが多いようです。「これまで村上作品を読み続けてき た人は読む必要はない」とか「駄作だ」といったものが目立ったように思います。 そんな中、私は同氏の別の作品と出会いました。そのきっかけとなったのは、某ラジオ番組でこの新作を 「駄作だ」と断じた書評家がその作品を絶賛したことからでした。その作品とは、「神の子どもたちはみ な踊る」というタイトルで、阪神淡路大地震の直後に執筆され、六つの短編で構成されています。 読後の感覚は不思議なものでした。かつて私が高校生だったころから愛読した大江健三郎氏と安部公房氏 の作品を足して二で割ったような感じとでも表現したらよいのでしょうか。この三氏に共通するものが、 その作品の中に強く感じる音楽の存在だからなのかもしれません。 とにもかくにも、村上氏の新作では以前にも増して登場する音楽に注目が集まったわけですから、音楽が 文学作品においてどんな役割を果たすのかも楽しみの一つであることは間違いありません。 さて、私の出会った「神の子どもたちはみな踊る」という短編集に登場する音楽はどんなものだったので しょうか。 次号もお付き合いください。

(覆面ライター 辛見 寿々丸)