I.歴史に残る日銀の金融政策
新年度がスタートしてしばらくたちますが、これほど慌ただしいスタートというのもあまり記憶にあ
りません。もちろん、桜の開花が例年より異常に早かった影響もあるでしょう。やはり、新年度のス
タートと言えば「お花見」という印象が強いからでしょうか◆その一番の要因は、4月4日に行われ
た日本銀行=日銀の金融政策決定会合の結果です。バブル経済時から、日銀の金融政策は、常に注目
を集めてきました。しかし、今回ほど事前から大きな注目を集めた会合はなかったかもしれません。
1日に発表された日銀短観は市場予想を若干下回るものであり、今回の決定会合もサプライズはない
だろうといわれていました◆ところが、ふたを開けてみると市場の想定外という内容でした。詳細は
すでに報じられたとおりですが、翌日の市場の反応はすさまじいものでした。円安・株高が進んだの
はもちろんですが、特に衝撃が走ったのが債券市場でした。債券買いが殺到し、長期金利は史上最低
を更新したかと思えば、その後は一転して債券売りが殺到し、金利が急騰するという乱高下となりま
した◆この一日が歴史に残る日になることは間違いありません。私なりの考えでは、おそらく市場関
係者にとっても経験したことのないことが起こったわけですから、いくらプロといえども対応不能に
なったのではないかと推察します。はたして、日銀総裁がここまでを想定していたのかどうか知りた
いところでもあります◆明らかな円安誘導であるにもかかわらず、海外でも歓迎あるいは容認の声が
多いようです。為替介入ではなく、量的・質的な金融緩和により、それと同様あるいはそれ以上の成
果を上げるというのは元財務官の黒田新総裁にとってはお手のものだったのかもしれません。金融緩
和の理由が日本の国内要因と説明されれば、海外諸国にとっても日本経済の回復は自国や世界経済に
とってもプラスであるとして納得せざるを得なかったのでしょう◆問題は、この金融緩和により実体
経済の回復を実現することができるかどうかです。戦後最長の経済拡大期間とされる02年2月から
08年2月までのいわゆる「いざなみ景気」の中で、景気が良いと実感した人はそう多くはなかった
と思います。金融緩和はあくまでも経済政策のうちの一つの方法にすぎません。「日銀が注目される
のは経済が悪い時だ。目立たないのが一番」という元日銀総裁のことばには重厚感があります。しっ
かり肝に銘じ、前へ進むべきでしょう。チャンスの到来であることには間違いないわけですから。