II.給付付き税額控除と軽減税率

この時期になると、鮮明に記憶が蘇るのは4年前の出来事です。サブプライムローン問題に苦しむ米国では、 「チェンジ」を掲げて米国初の黒人大統領を目指す現オバマ大統領の姿に米国民のみならず世界中が熱狂し ました。そこに起こったのが、国際的な金融危機の引き金となったリーマンショックでした◆その傷が癒え る間もなく起こったのが、現在も続く欧州の債務危機です。今回は、中国やインド・ブラジルに代表される 新興国の経済成長にも影を落としているという点では、より深刻かもしれません。ここが世界経済の二番底 であって欲しいと思うのは私だけではないと思います◆そんな中、わが国ではすったもんだの末、消費税増 税が決まりました。この増税に伴い、低所得者対策として給付付き税額控除と軽減税率の二つが今後の検討 課題として残ってしまうというなんだかよくわからない決着となってしまいました◆いずれの方式を採用す るにしても、それぞれにメリット、デメリットがあるという点は十分理解できることではあります。しかし、 今回の増税に関する議論の中では軽減税率の導入については慎重な意見が多かったことが推察されます◆そ の理由は、二つあるのではないかと考えます。まず、第一は本質的な意味で低所得者対策になるのかどうか という点です。かなり乱暴な例かもしれませんが例示してみたいと思います。年収200万円の世帯で食品 関連支出が100万円、年収2000万円世帯の同支出が600万円と仮定します◆軽減税率の適用がない 場合には、年収200万円世帯では5万円の負担増、年収2000万円世帯では30万円の負担増になりま す。年収に占める負担増の割合は前者は2.5%、後者は1.5%となりますから、確かに消費税の逆進性は 証明されました◆次に、食品関連支出に現行どおりの5%の軽減税率が適用された場合です。年収200万 円世帯では5万円の負担減となるのに比べ、年収2000万円世帯では30万円の負担減となってしまいま す。逆進性の問題については解決されていませんが、金額ベースでは年収の高い世帯のほうが多くの恩恵を 受けることになります◆もう一点は、軽減税率の適用によりどのくらい税収が減るのかという点です。何に 軽減税率を適用するのかの問題はありますが約2.5兆円減収するという試算もあります。現在、消費税率 1%で約2.5兆円の税収といわれていますから、消費税率は10%ではなく11%でなければならないは ずです◆軽々に軽減税率の導入を決定すれば、財源不足が生じることになります。もうひとつの方式である 給付付き税額控除を採用すれば、おそらく数千億円程度の減収ですむとは思います。ただし、この方式を採 用するにしてもマイナンバー制度などの整備が必要になり、簡単ではありません。いずれにせよ、さらなる 熟議が必要です。

(財務アナリスト 浦邊 謙佑) HP:ぜいりし.com 浦邊剛至税理士・行政書士事務所 ブログ:会計事務所の一日