II.「貿易立国」からの変貌
貿易収支が昨年、31年ぶりに赤字になったことに続き、年度ベースでも過去最大の赤字だったことが報じられま
した。ただし、経常収支は黒字を維持しています。貿易収支の赤字を大きく報じた背景の一つには、今後もこの状
況が続くかもしれないという懸念です。この赤字が継続すれば、現在は国内でほぼ消化されている日本国債が消化
できなくなり、国債の信認も低下するのではないかということを危惧しているわけです◆国債の信用が低下すると
どうなるのかという点については、前号で少し考えました。冒頭で触れたように貿易収支は赤字だったかもしれま
せんが、経常収支は黒字を維持しています。私はこの事実が意味することの方が重要だと思っています。そもそも
貿易収支の赤字が定着したわけでもありません◆財務省などの統計によれば、日本の経常収支の中身が大きく変わ
っていることがわかります。数年前までは、経常収支の黒字は貿易収支の黒字で支えられていたものが、近年では
所得収支の黒字が貿易収支の黒字を上回るようになってきた点に着目すべきでしょう。少し大げさな表現かもしれ
ませんが、わが国は「貿易立国」から「投資立国」へと変貌を遂げたとも言えそうです。海外投資の果実が対外収
支を支えるという構造はほぼ定着したといえます◆中身こそ違えども経常収支の黒字が継続して維持されていると
いうことは、日本経済全体では資金超過が継続していることに他なりません。この資金超過の構造も家計から企業
へと大きく変化はしているものの、家計や企業の資金が莫大な財政赤字を抱える政府の資金不足を支えているとい
うのが、現在のわが国経済の資金循環の構図であることには変わりありません◆問題はこの構図が持続可能なのか
ということに尽きるでしょう。その持続可能性に関する議論を否定するつもりはありませんが、とにもかくにも持
続可能な仕組みを構築するしか方法はありません。そのためにも、財政問題の本質を見誤ってはならないのです。