II.混迷深まる社会保障制度改革

近年よく耳にする言葉の一つにクール・ジャパンという言葉があります。クール=冷たいではなく、クール=かっ こいいという意味ですから「かっこいい日本」ということになります。ちなみにスマートフォンのスマート=賢い という意味ですから、「彼はスマートでクールだ」は「彼は賢くてかっこいい」ということになるのでしょうか? ▲「社会保障と税の一体改革」。すばらしいテーマであるとともに、そのネーミングセンスもなかなかのものです。 しかしながら、社会保障についての改革は先送りし、消費税増税の議論が先行している感は否めません。特に、社 会保障のうち年金制度についてはさらに混迷を深めています▲年金制度に対する国民の不信感は個人の経済活動の 巣ごもり状態を加速させます。特に、若い世代には将来の年金受給額や受給開始年齢がわからないわけですから、 今後の生活設計をどうしたら良いのか頭を悩ませる大問題です▲相手が民間保険会社であれば契約不履行に相当す るのでしょうが、公的年金はそうも行きません。なぜなら、公的年金は国家と国民との約束ではあるけれども、厳 密な意味での契約ではありません。保険会社の選択は可能ですが、この国で暮らす限り国家を選択することはでき ません▲今現在でも、試算の前提となっている統計や数値の多くが疑問であり、その目標設定の甘さは明白です。 結果として、国民の不信感を増長させ、その信頼はさらに低下してしまいます▲信頼できない公的年金制度であれ ば、国民の多くが保険料を納めたくないと思い、老後の備えは自分自身で行わなければならないと考えるのがもっ とも健全な行動です。皮肉なことですが、とにかく自己防衛を続けるしか方法はありません▲現行制度のままでは、 一人ひとりが老後の備えに収入の多くを費やす結果、個人消費は低迷するでしょう。わが国は個人消費がGDPの 約60%を占めています。経済成長を目指すといってもこの個人消費が低迷してしまえばそれどころではありませ ん▲私自身、年金制度そのものが破綻すると思っているわけではありません。問題はその不安定さです。最悪の想 定でも構わないから、信頼に足るものが必要です。将来がまったくわからないよりははるかにましだと思うのですが。

(財務アナリスト 浦邊 謙佑) HP:ぜいりし.com 浦邊剛至税理士・行政書士事務所 ブログ:会計事務所の一日