II.制度設計の欠陥を是正するには?
日本経済新聞の一面に春秋というコラム欄があります。この欄に6月下旬にわが国の復興支援のために来日した米国の
人気歌手であるレディー・ガガさんが取り上げられました。連日、あらゆるメディアで紹介され、観光庁長官から感謝
状が贈られるのみならず菅首相も感謝のメッ セージを添えプレゼントを渡すなど、まさに国家をあげての歓迎でした。
さらに、彼女は日本食も大好きなのだそうです。▲その影響かどうかはわかりませんが、農林水産省では「日本食文化
の世界無形遺産登録に向けた検討会」を開催しました。同省によれば、原発事故の影響によりわが国の食・農林水産物
の信認が揺らいでいる中、日本食の価値・向上を図るためとしています。日本食文化については、すでにベストセラー
になっている竹田恒泰氏の著書「日本はどうして世界でいちばん人気があるのか」でも一部触れられていますので、一
読されるのも面白いかもしれません。▲そんな中、政府・与党は社会保障と税の一体改革案を決定しました。 ただ、
閣議決定が見送られたことからも内容は大きく後退したとの批判もあるようです。項目としては、医療・介護、年金、
消費税の三つに大別されています。このうち、社会保障財源を賄う消費税増税については自公両党も以前から理解を示
していることから、税率10%が当面のたたき台になるものと思われます。しかしながら、国際機関からの指摘にもあ
るとおりこの税率はあくまでも当面のものであり、将来的な財政再建への道筋を示すことも難しく、日本政府・日本国
債の信認低下も懸念されます。▲それよりも協議の難航が予想されるのが医療・介護、年金の分野ではないでしょうか。
将来にわたって持続可能な制度であることを標榜するのであれば、もう少し踏み込んだものが欲しかったというのが実
感です。介護は別の課題としても、現行の医療・年金制度が設計された時代と現在では、その状況は大きく変わってい
ます。この両制度は、今日まではつぎはぎだらけの状態でも何とか維持はしてくることができました。どんなに優れた
制度であっても、制度疲労は必ずあります。将来の現実を直視し、それがたとえ厳しいものであったとしてもそこから
目を背けていては良い制度設計はできません。悲観的になれということではありません。楽観的な数字を並べた上での
帳尻あわせであってはならないという意味です。▲以前「自助、公助、共助」が大切だと申し上げたことがありました。
現在の医療・年金制度はこのすべての要素が生かされた制度といってもよいかもしれません。とすれば、高福祉高負担
を望むのか、それとも中福祉中負担を望むのか、それとも低福祉低負担で構わないのかという根本的な議論が抜けてし
まってはいないでしょうか。こういった議論が欠けていては中福祉中負担を目指したにもかかわらず、結局は低福祉高
負担という社会になってしまったということにもなりかねません。日本を支援してくださるのはガガさんだけではあり
ません。逆に、こんな時だからこそ「世界に向かって真の意味で様々な困難に立ち向かう」そんな日本でありたいもの
です。世界もそんな日本を見たいと思っている。と、私は思います。