II.日本と米国 租税感覚の違い
▲米労働省が1月7日に昨年12月の雇用統計を発表しました。同省の発表によれば、失業率は9.4%と、前
月に比べ0.4ポイント低下し、失業率の面では改善がみられました。▲わが国においては、失業率と有効求人
倍率の二点が発表されますが、米国の場合は少し事情が異なります。失業率よりも非農業部門の雇用者数の
増減が最も問題になります。▲直前に発表された民間会社の雇用統計によれば、雇用者数についてかなりの
増加が見込まれていました。ところが、政府の発表はこの予想を下回りました。市場はこれに反応し、株価は
下げました。民間会社と政府の発表が異なるのは今回に限ったことではないのですが、非農業部門の雇用者数
の増減に注目しているという点では同じです。▲毎月第1週の金曜日に発表される米国の雇用統計は、全世界
の市場関係者が最も注目する指標の一つでもあります。疑問に思うのは、なぜ失業率より非農業部門の雇用者
数の増減が重視されるのでしょうか。▲一般的には、失業率は景気に遅行するという理由からです。失業率よ
りも雇用者数の増減のほうが景気に対する感度が高いということになります。市場関係者が景気の現状やその
先を判断するには、失業率よりも雇用者数の増減のほうが適切だということになります。▲もちろん、これは
間違いないことですが少し違った観点から考察を加えてみたいと思います。▲かなり前の話になりますが、国
税局長から「日本人と米国人の納税意識の違い」というテーマでお話を聴いたことがあります。▲米国は移民
の国です。かつて北米大陸へ移住してきた彼らがどのようにしてコミュニティを形成して生活をしてきたのか
というお話です。まず、キリスト教徒である彼らは教会をつくります。次は子供たちに教育を受けさせるため
の学校です。そして、先住民の攻撃から自分たちの身を守るために保安官を雇うことになります。▲そのため
には当然のことながら資金や労働力の提供が必要です。これらの費用をまかなうために自分たちで資金を出し
合う必要がある。そういったことが云々というお話でした。▲わが国の歴史はどのようだったのでしょうか。
古くは「租庸調の時代」から自分たちの生活のためにというよりも、貢ぐものだったという印象がぬぐえませ
ん。年貢という言葉自体がそれを象徴しているようにも思えます。もちろん、現在はわが国の税制も確立され
ているわけですからそんなことはないはずなのですが、イメージ的には微妙なものがあります。▲これは、お
そらく日本人と米国人のメンタリティーにかかわる部分が大きいような気がします。先に雇用統計の問題を取
り上げましたが、米国人の多くは働かないことはキリスト教の教義に反することでしょうし、もっといえばあ
りえないことだと言い換えても良いかもしれません。わが国でも勤労は国民の三大義務の一つではありますが、
少し意味が異なっているような気がします。▲自分たちが自主的にお金を徴収し、かつ自主的にその使途を決
定する仕組みと、お金を徴収されよくわからないことにそのお金が使われてしまうという違い。そういうこと
なのかもしれません。