I.税務調査はこわくない その4
前回は税務調査の事前準備について書きました。今回は税務調査の当日についてです。
税務調査は朝の10時頃から午後4時頃の予定で行われます。
以下に調査の平均的なパターンにそって当日の対応を説明します。
【お出迎え】
税務署職員の方がます税務署の職員であるという証明書を提示してくれますので、それを確認します。
税理士が調査に立ち会う場合には税理士も税理士証票という税理士の身分証明書を提示することになっています。
(余談ですが顧問税理士以外の人が調査の時だけ立ち会う場合には、普段申告をしているのがニセ税理士である
可能性もあります。)
調査される側は代表者(社長)、経理担当者等が立会います。中小の同族会社で社長の家族が役員や使用人に
なっている場合には、朝または夕方だけでも事務所にいるようにすると、名義だけ使って給与を支払っている
というような、あらぬ疑いをかけられる事も避けられます。
お茶程度は出した方が話しがしやすいと思いますが、茶菓子などは不要です。
【調査開始】
事業の概況や経理の状況などの聞き取り調査から始まることが多いです。
わたしはこの導入部分をいつも大事にしています。税務職員の方も人の子です。明らかに挑戦的な態度では
税務職員の方も、戦闘態勢にはいってしまいます。経営者も税理士も調査に協力的な態度で臨んだ方が、
スムーズに調査が進むと思います。
課税の公平というのは租税行政における最も重要な原則ですが、公平を担保するために行われる税務調査を
実際に行うのは何千人といる生身の税務調査官です。当然そこには行政官の裁量という余地が存在します。
その余地を良い方にいかすのも、悪い方に向けるのも、対応しだいという面があるのは否めません。
ただ、あまりフレンドリーになっていろいろな事を話しすぎるのは、調査が長引くだけでなく余計な事まで
詮索されてしまう事になりかねませんので、聞かれたことだけに簡潔に話すとよいと思います。
どう答えたらいいか回答に迷うときには、あいまいな返答をするより、顧問税理士に助けを求めた方がよいと
思います。
【休憩】
12時ごろになると一旦休憩をとります。かなり前には調査官に昼食を出すのが普通でしたが、近年ではよほど
の理由がないかぎり調査官が出された食事を食べることはありません。近くの安くておいしい食堂などを教えて
あげると喜ばれることも多いです。
調査される側はこの間に午前中の調査で気になった点について税理士に確認したり、資料を揃えたりするなど
有効に使うと良いと思います。
【午後】
いよいよ、調査官が帳簿類を細かくチェックしはじめます。調査官に求められたら、書類がすぐに提示できるよう
に用意しておきましょう。また、帳簿等を見ながらいろいろな質問がされます。調査官によっては、ストレートに
は質問せず、変化球をなげてくる人がいます。 たとえば、「SUICAの使用履歴を見せてください」ではなく
「最近はSUICAで飲み物とかも買えるんですよねー」のような感じです。これは世間話をしたいのではなく、
SUICAを会社の経費でチャージしておきながら私的なものを購入していないか」という意味なのです。
きちんとした使用履歴がある場合は問題ないのですが、ない場合などではこの時の返答いかんによっては私的な
利用として否認されてしまう場合もあるのです。
調査官の質問の意図は、売上については「売上の計上もれはないか」「売上の計上時期を遅らせていないか」
経費については「社長の私的な経費はないか」「経費の計上時期が早すぎないか」という場合が多いので、その
事を念頭に答えると見当違いな返答をしたり、自分自身で不利な状況を作ってしまう事が少なくなると思います。
【調査終了】
調査は1日で終わることもあれば数日かかることもあります。最後に調査での指摘事項について調査官と経営者、
税理士で確認して調査が終了します。
【調査終了後】
調査での確認事項が納得できるものであればその内容で修正申告をし、必要があれば納税を行います。
役員賞与の否認等で源泉所得税を支払う場合については税務署で税額を計算し納付書を作成してくれます。
一度修正申告をしてしまうとそれを覆すのはほぼ不可能になりますので、指摘事項が納得できない場合には修正
申告書は提出しません。
この場合税務署から更正がされ、それに不服がある場合には別の手続をとることになります。
II.高額療養費と医療費控除
高額療養費とは病院などの窓口で支払う医療費を一定額以下にとどめる目的で支給される制度で、一カ月間に同一の
医療機関でかかった費用を世帯単位で合算し、自己負担限度額を超えた分について支給されます。
つまり高額療養費の対象となるのは、保険適用される診療に対して患者が支払った自己負担額分であり、食費や
差額ベッド代、先進医療にかかる費用、妊娠・出産費用(帝王切開などの保険適用以外のもの)は対象外と
なりますので注意してください。
高額療養費の支給申請は本人が行い、「健康保険高額療養費支給申請書」に記入をします。また、入院すること
が事前に分かっている場合には、加入している健康保険組合等から「健康保険限度額適用認定書」を発行して
もらうことにより、医療機関の窓口負担額を上限額までにとどめる事が可能となります。
医療費控除とは所得税、個人住民税において本人又は本人と生計を一にする親族のために医療費を支払った場合
に適用となる所得控除です。対象となる医療費はとても細かく定められています。
おおまかな基準としては治療に対してかかる費用が対象であり、予防や健康増進に係るものは対象とはなりません。
妊娠・出産費用は医療費控除の対象となりますが、出産育児一時金等を差し引いた金額が対象額となりますので
注意してください。また保険会社からの保険金も同じ扱いになります。保険金が年をまたいで入金される場合は
見込額で差し引く事になります。
このような制度を有効活用して下さいね。
(ファイナンシャルプランナー 小林 裕美)
III.世界経済の活性化と日本の針路
▲「日米関係のこじれ」に端を発したのかどうかについてはよくわかりませんが、日米関係に続き日中関係、日露
関係がこのところギクシャクしています。このギクシャク感は、今に始まったことではなく、私たちが常々感じて
いることの一つです。どの政権下であっても、外交問題というのは非常に厄介な問題であることは間違いないでし
ょう。▲目を転じてみると、別の問題も大きなテーマとなっています。最近よく聞くのが、FTA、EPA、TPP
という言葉です。インドとのEPA締結の合意が報じられたことは記憶に新しいところです。▲これらFTA、
EPA、TPPという言葉についてその内容や違いについて少し整理してみたいと思います。▲FTAは自由貿易
協定の略称で、多くは2国間で物品の関税やサービスの規制を撤廃し、経済活性化を目指すという内容です。EPA
は経済連携協定の略称で、FTAより範囲が広く、人の移動や投資ルールの整備も対象にしています。▲本来は、
WTO=世界貿易機関が、その大きな役目を担っていたはずです。ところが、ここでの多国間交渉が暗礁に乗り上
げてしまいました。多国間交渉は、なかなかまとめづらいというのが現実です。当然のごとく、各国ともそれぞれの
国益を主張してくるわけですから、なかなか合意が得られないのは無理もないことかもしれません。最近の国際会議
においてもなかなか多国間交渉がまとまらないという場面をよく目にします。▲最後に、TPPについてです。最近
最もよく聞く言葉かもしれません。TPPは環太平洋経済連携協定の略称です。TPPは、ほぼすべての関税を撤廃
するという強力な内容です。TPPへは米国も参加を表明しています。米国の場合は、アジアで台頭する中国に対抗
するという狙いがあるとの見方が一般的です。▲日本はといえばその参加をめぐって大変な議論になっています。
与野党のみならず、経産省や農水省も巻き込んでの大議論です。繰り返しになりますが、TPPはほぼすべての関税
を撤廃するという強力な内容です。従来、わが国はコメなどの農産物を関税撤廃の対象外にしてきたわけですから、
今までのやり方が通用しなくなる可能性もあるわけです。つまり、コメなどの農産物についても関税の撤廃を余儀な
くされるかもしれません。▲TPPに参加するかどうか。将来に向かっての非常に重要な決断を求められているので
す。個人的には、TPPへの参加は必要だと思います。しかし、その前提として戦略的なシミュレーションを十分行
ったうえで、TPPのルール作りに積極的な発言ができるのかどうか。TPPの枠組みの構築に、わが国のリーダー
シップを期待したいものです。
IV.企業会計と税法 〜法人税の所得の計算〜
前三回で、企業会計原則に基づく当期純利益と法人税法上の所得の金額について、その目的の違いや、金額が
どのように異なるのかなどを見てきました。
今回は、法人税の所得の金額はどのように計算されるのかをご紹介します。
法人税の所得の金額は、益金の額から損金の額を控除した金額です。
益金の額とは、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、
無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額です。
損金の額とは、別段の定めがあるものを除き、当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他
これらに準ずる原価の額、販売費、一般管理費その他の費用(中略)の額、当該事業年度の損失の額で資本等
取引以外の取引に係るものです。益金の額と損金の額は、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と
認められる会計処理の基準に従って計算されます。
実務での所得計算は、「益金の額の合計」と「損金の額の合計」を各々求めるのではなく、一般に公正妥当と
認められる会計処理の基準に従って計算された当期純利益(損失)の金額を基に調整を行います。
(企業会計コンサルタント 比留川 益朗)
V.税の情報はインターネットでチェック
今年7月、相続税が課税された年金払いの保険金に所得税も課すのは違法との最高裁判決が出ました。では、
実際に納め過ぎてしまった所得税の還付手続きはどうなっているのでしょうか。
国税庁は「相続等に係る生命保険契約等に基づく年金の税務上の取扱いが変更になりました」というページを
開設して情報を公開しています。
10月20日に公表された文書のPDFの他、対象条件や必要な手続き・書類・期限・サポート窓口などの情報が
まとめられています。
国税庁のWebサイトでは、このような税制の変更があった場合の他にも、様々なコンテンツを通して税について
の情報を発信しています。
ちょっと疑問に思ったときなどにはタックスアンサー(税のよくある質問)が便利です。「税の学習コーナー」
(小・中・高校生向けのページ)ではパワーポイントの教材とゲーム・クイズ・紙芝居などで視覚的に学習する
ことができます。インターネット番組(Web-TAX-TV)ではe-Taxで確定申告する際の手順の解説や国税局の仕事
をドラマ化した動画が見られます。
冒頭にご紹介したような最新情報はトップページに掲載されています。ウイルスや振り込め詐欺に注意を呼び
かけることもあります。
ホームページによる情報の提供は「税を考える週間」のテーマのひとつにもなっています。
機会があればチェックしてみましょう。
国税庁HP → http://www.nta.go.jp/
(Webデザイナー)